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東京高等裁判所 昭和25年(う)1003号 判決 1950年6月05日

被告人

横田秀雄

主文

本件控訴はこれを棄却する。

理由

前略。

弁護人控訴趣意書(一)について。

仍て案ずるに、傷害罪が故意犯であり、其の成立する為め他人に暴行を加える故意を必要とすること所論の通りである。弁護人は、原判決の判示第一事実については、原審相被告人鈴木明が、大石あや子の身体に暴行を加えようとする意思のあつた事、及び、その意思に基きあや子の身体に積極的に暴行を加えたと言うことを認むべき証拠はないと主張するけれども、原判決挙示の各証拠、殊に証人、大石昇、同大石あや子に対する各尋問調書の記載を綜合すれば、原判示のように原審相被告人鈴木明が、大石あや子、大石昇に対し、匕首を突付け、脅迫中却つて、右両名より匕首をもぎ取られ押え付けられようとしたが、匕首をもぎとられたり押え付けられまいとして、之ともみ合つた際、右あや子に対して判示傷害を負はせた事実を認めることができる。而して強盗犯人が、その所持する兇器の奪取を妨げ、又は取押えられることを防ぐが為め、被害者と取組合を為すが如きは暴行に外ならないものと解すべきであつて、犯人が積極的に暴行を加えた場合と、これを区別しなければならない理由がない。従つて強盗犯人が、前示のように揉合中に被害者に対し、傷害を生ぜしめた場合には、刑法第二百四十条前段の強盗人を傷したるときに該当すること当然であつて、原判決の趣旨も亦茲にある。従つて原判決が其の挙示する証拠を綜合して、判示第一の事実を認定したことにつき理由不備、又は事実誤認の違法あることなく、論旨は総べて其の事由がない。

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